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こちらは、北のサッカーアンビシャスにて掲載された記事を転載したものです。
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私自身、初めて海外のクラブに所属してから6年の年月が経ちました。
気がつけば、国境を超えることへの抵抗はほぼ皆無となり、言葉や文化が違う国で暮らすことにもすっかり慣れました。
現在は、コロナ禍の影響で日本から海外に行くことができませんが、かつてのように海外への往来が可能な日常が戻ったときには、一目散にチケットを取って飛行機に飛び乗ることでしょう。
さて、そんな私のパスポートには「JAPAN」の文字が印字されています。
奇抜な髪型や目周りの堀の深さから東南アジアや中東系の人間に間違われることは多々ありますが、私はれっきとした日本人です。
お米と納豆が大好きですし、ラーメンは音を立てながらすすります。
冗談はさておき…。
生粋の日本人である私ですが、海外でサッカーをプレーするにあたり、「JAPANESE」であることは、あらゆる場面で大きな恩恵を受けています。
日本で生まれ育った私たちにとって、日本人であることは当たり前過ぎる事実です。
日本が島国であることも相まって、そんなことを一度も意識したことないのが普通だと思います。
海外で暮らす以前は、「日本人であること」など一度も考えたことがありませんでした。
しかし、海外でのサッカー生活を通じて、「自分は日本人であることの恩恵をたくさん受けているんだ」と気付かされた次第です。
そこで今回のコラムは、「日本人であることの恩恵」と「サッカー」、この2つの内容を掛け合わせながら筆を進めていきます。
目次
日本のパスポートランキングは世界1位
皆さん、日本のパスポートランキングは「世界1位」という事実をご存知でしょうか?
2021年3月現在、日本国のパスポート所持者がビザなしで渡航ができる国の数は191カ国となっており、日本は3年連続で世界1位に輝いています。
これは、日本のパスポートが「世界で最も信頼度が高い」ことを意味しており、言い換えると、世界中のどの国の人たちよりも日本人は「自由度が高い」ということです。
この事実と、サッカーはどのように結びつくのでしょうか。
たとえば、近年は世界各国のあらゆるリーグに挑戦する日本人選手の人数が膨大に増えました。
これはまさに、日本パスポートの自由度の高さが、大きなメリットとして作用しています。
まず、海外リーグへ移籍するには…
「海外クラブから直接オファーをもらう」
「海外現地でのトライアルに挑む」
大きく分けると2つの方法に分類されます。
前者の場合は、すでに何らかの結果を残している選手が該当します。
Jリーグで結果を残し、日本代表にも選出されて、欧州クラブから興味を持たれて、そのクラブから直接オファーが届く。
Jリーガーだけに限った話しではありませんが、ざっとこのような流れでしょうか。
パスポートが優位に働くことが多いのは、後者の「海外現地でのトライアルに挑む」ケースです。
現地トライアルに参加する場合、前者とは違って事前に移籍先が決まっていない状態です。
そのため、まずはどこかの国へ渡航することが必要になります。
その際、日本パスポートの場合はビザ無しで191カ国へ入国することが可能で、移籍先を探す際の自由度にも比例します。
一つの例として私が長年プレーする「モンゴル」の場合、モンゴル国のパスポートだとビザなしで渡航できる国の数は62カ国です。
これは、日本パスポートの約1/3にあたり、自由に行き来することができる国が限られています。
日本人選手がモンゴル現地にトライアルに行く場合、パスポートさえ所持していれば入国が可能です(その後、モンゴルの場合はビザ無しで1ヶ月滞在可能)。
しかし、モンゴル人選手が日本へトライアルに行く場合、パスポートと同時に何らかのビザを取得する必要があります。
ビザの取得は、皆さんが想像している以上に手間のかかる作業で、ときにはお金も必要です(その国によってビザの詳細は異なります)。
つまり、「日本人として生まれた時点で、海外へ行くことのハードルが低い」ということです。
これは、国境を超えて自分のプレーする場所を探す際、とても優位に働きます。
事実、私がプレーしてきたモンゴルやタイではビザ無しでの入国が可能で、プロ経歴のない多くの日本人選手が現地のトライアルに参加して、プロ契約を勝ち取ってきました。
もちろん、その選手にサッカーの実力が必要なことは周知の事実ですが、その選手が自分でも気づいていないところで、日本人であることの恩恵を受けているのです。
また、海外現地のリーグでプレーするということは、日本人である私たちは「外国人選手」となります。
その限られた狭き門を争うのは、世界中の全ての国籍の選手たちです。
その際、ビザを所持せずにスッと入国できること自体、とても大きなアドバンテージとなるのです。
ちなみに、ビザ無しで入国できたとしても、その国で定められた滞在期間を超えてしまうことはNGです(不法滞在になります)。
何かしらの方法で、滞在期間を延長するなどの手続きが必要となりますのでご注意を。
日本と海外では「貧困問題」のレベルが違う
近年の日本では、「経済格差が広がっている」とされています。
確かに、以前の日本と比べた時には、格差は拡大傾向にあるのかもしれません。
しかし、私が海外現地で見た光景は、日本で言うところの貧困と少し話の次元が違うように感じました。
たとえば、モンゴルでは「マンホールチルドレン」と呼ばれる子どもたちが存在します。
1992年にモンゴルで起きた社会主義体制の崩壊を機に、行き場を失った子どもたちが冬場にマンホールで暮らしはじめたことで、その名が付けられました。
冬のモンゴルはマイナス30〜40℃にもなる極寒で、地上では寒さのために生きていくことが不可能です。
そのため、何らかの事情で行き場を無くした子どもたちは、暖房用の温水が通るマンホールの中で生活するしかないのです。
現在は、欧米や日本などの民間団体、国営の児童救済施設が設立されており、その多くの子どもたちは保護され、「マンホールチルドレン」は激減したと言われています。
しかし、実際には路上で物乞いをする子どもの姿を首都のウランバートルで何度も見かけますし、大量のゴミの山で暮らす子どもも存在します。
また、私が一度トライアルで訪れた東南アジアのカンボジアについてもご紹介します。
近年は経済発展の著しいカンボジアですが、ビルが立ち並ぶようになった都市部と、それ以外の地方では、状況が大きく異なります。
1970年代には内戦やクーデター、ポルポト政権による自国民の大量虐殺などが起こり、1990年代後半まで不安な情勢が続いたカンボジア。
その影響から、今でも貧困に苦しむ人が多く、特に農村部に住む地方の人たちは、生まれたときから貧困状態です。
現在は、日本をはじめとする先進国が中心となり、援助機関を立ち上げて貧困の解決に取り組んでいます。
徐々に問題は解決方向に進んでいますが、今でも人口の約35%は1日1ドル(約110円)以下での生活を強いられています。
さらに、農村部ではインフラの整備が整っておらず、安全な水を飲める人の割合は約15%と言われています。
このような現実を目の当たりにして、「日本の経済格差なんて、まだまだ優しいもんだな」と私は感じました。
もちろん、日本でも様々な事情から苦しい状況に陥っている方も存在するでしょう。
また、それを海外のケースと単純に比較することは大変難しい作業であり、比較すること自体がナンセンスだとも思っています。
しかし、日本では蛇口をひねると安全な飲水が確保できますし、教育環境も整っております。
ほとんどの人が義務教育を受けて、高校、大学に進学しますし、仕事を選ぶことも可能です。
それだけでも、本当はとても恵まれていることなのです。
このような環境で生まれ育った我々日本人は、仮にサッカーで失敗したとしても、なんとかして生きていくことができます。
日本には多くの職業が存在しており、本人のやる気次第では起業や副業をする環境も、他国に比べれば十分に整っているのです。
ということは、日本人に生まれた時点で、「失敗を気にせずに思いっきりサッカーで挑戦ができる環境」だと捉えることもできます。
反対に、前述したような環境から生まれ育った選手がサッカーでチャレンジする場合は、失敗が許されないのです(そのプレッシャーから生まれるのが、日本で表現されるところの「ハングリー精神」なのかもしれません。その議論をし始めると、文章量が莫大になるので、今回は泣く泣く省略します…)。
そのようなプレッシャーの有無が、「心からサッカーを楽しむこと」に深く関係しているのではないかと、私は分析しています。
まとめ
「日本に生まれた時点で本当は大きな恩恵を受けていること」
この事実を、海外で生活するようになってから私は初めて気付きました(恥ずかしい限りです…)。
そして、海外でサッカーをプレーするときもその恩恵は大きく、「JAPAN」の印字が刻まれているパスポートを所持する者として、より一層の責任を感じています。
仮に、世界的には全く知られていないような国のリーグだとしても、日本国籍の選手がその国でプレーするときには、その選手が「日本代表」です。
ここまで強烈に「日本人であること」を意識せざるを得ない環境に身を置いたからこそ、様々なことに気づくことができました。
その経験を少しでも多くの日本人に伝えることも、私の役割の1つではないかと考え、今回はこの場を借りて執筆させていただきました。
これからも、日本人であることを誇りに思いながら、全力でサッカーを楽しみたいです。